【 箏組歌「初音の曲」】 山田検校 〔日〕 (1757.04.28〜1817.04.10) 60歳
江戸時代後期の筝曲家の山田検校は、尾張藩の 宝生流能楽師の三田了任を父に、モーツァルトが 生まれた翌年の4月28日に江戸に生まれた。 本名は斗養一(とよいち)といった。
幼いときに失明したが、山田松黒(医師)に師事し、 後年、山田流を興した。
当時、江戸人の好みに合うように浄瑠璃の旋律を 取り入れたことで人気が出て、多くの門弟に 慕われて発展していった。
その功績で、室町以降に目の不自由な人に 与えられた最高の官名「検校」を授けられた。 (この制度は明治時代に廃止された)
箏曲の二代流派の一つの「生田流」は、 『三味線(地唄)』との合奏を取り入れているが、 「山田流」は、唄の内容を重視した流派である。
「小督(こごう)」「熊野(ゆや)」「長恨歌の曲」 「葵上」は代表作品で四曲とよばれる。
奥許の「初音の曲」は、横田袋翁の作詞で 唯一の箏組歌である。
「源氏物語」の「初音」の巻に取材し、源氏六条院殿に おける新年ののどかな生活のさまを象徴的に まとめて六歌に配している。
一 梅が香も、みすの匂ひにふきまがひ 春のおとどにはるたてる、 おまえのさまいふことのはもおよばじ。
二 あふみのや、あふみのや、名だかき山もよそなあらぬ、 春の鏡にむかひゐて、かわらぬかげをうつさむ。
三 けふは子の日なりけり、千歳の春をいはふとて そのふの小松引き遊ぶ、人の心ぞのどけき。
四 めずらしや、かげ高き花をねぐらの鶯。 すだちし松のねにたてて、谷のふるすをこととふは、
五 花の香さそふゆふ風、のどかに吹きたるに、 梅もやうやうひもときて、このとのあそぶおもしろき。
六 をとこだうかの明け方、水駅にもあらじな、 わたをかつぎわたして万歳楽をうたへり。
(訳)
1 梅の香も風に吹き送られ、御簾の中の香と混同され、 正月に殿に訪れる新春の前哉や殿の中の祝儀の情緒の 華やかさは言葉では表現されないものである
2 近江国の名高い山も他でもない鏡山。 その山の名の春の池の鏡に向かって、 千年も変わらず栄える影を映してみよう 。
3 今日は子の日であるよ。千年の栄える春を祝うというので 前栽の小松を引いて遊ぶ人の心は長閑である。
4 珍しいことである。影の高い花のような東宮妃という 高い位を巣にした鶯が巣立ったもとの松の根に 音を立てて谷の古巣を訪れることは殊勝なことである。
5 花の香をただよわせてくる風は長閑に吹いてきたが、 梅もようやくほころびはじめ、この殿での遊びは 面白いことであるよ。
6 男踏唄の夜明方水駅でもあるまいな、 綿の花をつけて万歳楽を歌った。
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